間違っていませんか? ウオーキングシューズ選び

 旅行、散策、会食、観劇……。「お出かけ」はセカンドライフの最大の楽しみ。忙しかった現役時代から一転、平日やオフシーズンに自由に遊びに行ける暮らしは「頑張ってきた自分へのボーナス」だ。でも、あまり張り切りすぎて、体を痛めたりしては元も子もない。今回は旅行や外出時の心身の負担をより小さくしてくれる靴、鞄(かばん)など“バリアフリー外出グッズ”を紹介しよう。(ジャーナリスト・高嶋健夫)

京王百貨店新宿店の婦人用ウオーキングシューズ売り場はウィークデーの昼の時間帯でもアクティブシニア客で賑わっている


■男性にも多い外反母趾、原因はゆる過ぎる靴に!?

 シニア向けの靴といえば、今や定番になっているのが「ウオーキングシューズ」。明確な定義はなさそうだが、一般的には靴底の衝撃吸収性(緩衝性)、軽量性、通気性などを追求し、「足や膝、腰への負担を軽くしてくれる、長時間履いても疲れにくい靴」の総称と捉えておけば間違いない。

 一口にウオーキングシューズと言っても、本格的なスポーツ用(ウオーキング・ランニング用、ハイキング・トレッキング用など)から、街中を歩くためのカジュアルなタウンシューズタイプまで、種類はいろいろ。海外の高級ホテル・レストランのドレスコードにも合うようなファッショナブルな婦人用シューズ、スーツ・ネクタイ着用で履いてもおかしくない男性用シューズなども増え、品そろえは普通の革靴とほとんどそん色ないくらいに充実している。

 そこで、まずは専門家に「ウオーキングシューズの選び方」を教えてもらった。訪れたのは、東京・新宿西口にある京王百貨店新宿店。同店は日本一のデパート激戦区・新宿で売り場面積約4万3000平方メートルと最小規模ながら、1994年にいち早く女性客を中心にした中高年層にターゲットを絞り、業界の常識を覆す独自の商品政策(MD)と売り場・動線づくりを断行。いまや“シニア一番店”として絶大な支持を獲得している。

 中でもウオーキングシューズは品ぞろえが充実。1階にある婦人靴売り場の専用コーナーは常時1000足を展開し、年間8万足を売り上げ、靴業界では“日本一のウオーキングシューズ売り場”として知られる。

 そのMDを担当する婦人雑貨部婦人靴・洋品担当バイヤーの福田佳世子さんは、ウオーキングシューズ選びの基本的なポイントとして次の点を挙げてくれた。

 (1)サイズは「つま先に1センチ、もしくは親指1本分くらい」の空きを持たせたサイズを選ぶ

 (2)幅は、当たる箇所がない程度にぴったり合うものを選ぶ(横幅に余裕があり過ぎるとかえって疲れやすく、外反母趾=ぼし=の原因にもなる)

 (3)必ず左右ともしっかり履いて、実際に歩いてみて選ぶ(左右が全く同サイズの人はいないので、買うときにインソールなどで微調整してもらうと良い)

 (4)旅行用など「長く歩く」ときに履く靴は、ひも靴など「足の甲の部分でしっかりと固定できるタイプ」を選ぶ

 (5)女性の場合、ストッキングで履く靴とソックスで履く靴は必ず使い分ける

 いずれも誰もが納得できる靴選びの基本ではあるが、特に注意したいのは(2)の横幅だという。「外反母趾で悩んでいる人などに一番多く見られる誤解は、必要以上にゆるい靴を選んでいること」と福田さん。「実際には2Eでもちょうどいいはずなのに『自分は3Eか4E』となぜか思い込んでいる人が多いんです」と強調する。

 筆者も自分の足は“甲高・幅広”の典型的な悪足と考えていて、いつも迷わず「3E」を選んでいるので一瞬、「えっ!?」と驚いてしまった。が、そう言われてみると、医者や靴の販売員に言われたわけでもないのに、いつの間にか勝手にそう決めつけていた節がある。

 さらに追い打ちをかけるように、150アイテムを取りそろえている同店5階のスポーツシューズ売り場で主にメンズ用のウオーキングシューズを担当する紳士服・スポーツ用品部カジュアル・スポーツ担当バイヤーの榎戸也恵さんは、次のようなショッキングな“警告”を発してくれた。

 「外反母趾は女性の病気と思われがちですが、実際には男性にも意外なほど多いんです。外反母趾の症状や兆候が見られる方の多くは、横幅がゆる過ぎてフィットしていない靴を履かれているんです」

 外反母趾は簡単に言うと、親指が人差し指側に変形して曲がった状態になる病気。先端がとがったハイヒールを履く女性に多いとされているが、ゆるい靴を履いているとつま先が靴の先端部にずれ込んでしまうので、結果的に指を圧迫してしまうらしい。楽だと考えていたことが、逆に快適さを阻害してしまうという指摘。シニアに限らず、また男女を問わず、注意すべき靴選びの重要なチェックポイントといえそうだ。

■男女とも「サイドファスナー付きのひも靴」が断トツ人気

アシックス「ペダラ」のファスナー付きひも靴タイプ「553」は、京王百貨店新宿店で最も売れている婦人用ウオーキングシューズ

 以上を踏まえて、実際にどんなウオーキングシューズを選べば良いか。2人のバイヤーに、男女それぞれの最近の人気タイプと売れ筋商品を紹介してもらった。

 男女とも、「サイドファスナー付きのひも靴」が圧倒的な人気を集めている。ひもを結んだままでも、その脇に付いたファスナーを引き下げれば簡単に脱げる点が人気の理由。女性用では半数以上、男性用に至っては9割近くがこのタイプが占めているそうだ。

 靴をしっかりと固定するにはひも靴がベストだが、いちいちひもをほどいては結んでという作業を繰り返すのは面倒だ。無精をして結んだまま無理矢理脱いだり履いたりしていると、開口部、特にかかとの部分が型崩れしてフィット性を損なってしまう。特に旅行用シューズの場合は、神社仏閣を参詣したり、和風旅館や料亭で座敷に上がったりと靴を脱ぐ機会が多いので、ファスナー付きが好まれているようだ。

 具体的な売れ筋商品を見ると、女性用の人気ナンバーワンはアシックスの「pedala(ペダラ)」のファスナー付きひも靴タイプ(品番は「553」、価格1万8900円)で、販売数は断トツの1位だという。ソールにスポーツシューズにも使われている衝撃緩衝材を組み込み、「歩いても歩いても疲れにくい」というのがキャッチコピーになっている。

 これに並ぶ人気商品が、大塚製靴の「BonStep(ボンステップ)」の同タイプ(「7013」、1万8690円)。ヒール高は5センチほどとやや高めながら、外反母趾の人でも足裏の形に合った木型とウレタンのインソールを採用し、指への負担を軽減しているという。

ビューフォート「ビューフォート」のワンストラップシューズは、ウオーキングシューズには見えないおしゃれさで高感度シニア女性のハートをつかんでいる

■高感度シニアのハートつかむ

 最近人気が高まっているのは、ビューフォートの「BeauFort(ビューフォート)」のワンストラップシューズ(1万4490円)。ヒール高4センチのパンプスに太めのベルトが付いたタイプで、足にしっかり固定して安定感がある点が受けている。一見しただけではとてもウオーキングシューズとは思えないおしゃれな若年層向けのデザインが売りで、50~60歳代のシニア女性にも人気を呼んでいるという(担い手は最近なにかと話題の“美魔女”系の高感度シニア女性たちであろうと、筆者は推察しております)。

 一方、男性用ではヨネックス、ミズノの二大ブランドの人気が高いという。前者はテレビ通販でもおなじみの「パワークッション」が売り物の定番商品で、天然皮革に撥水(はっすい)加工を施した245グラムの超軽量タイプ「MC30」(婦人用は「LC30」、1万3650円)などが売れ筋。後者では「ミズノウエーブ」シリーズ、ウォーキング用、外出用のいずれにも向く「LD402(2はローマ数字)」シリーズなどの人気が高いそうだ。

 最近の消費トレンドとしては、東日本大震災以降、シニア層の間でも外出時に災害が発生して帰宅困難になるリスクを想定して「とにかく長時間履いていてもより疲れにくいタイプがほしい」という人が増えているそうで、ウオーキングシューズ需要を底上げする大きな要因の一つになっている、と同百貨店では見ている。

 また「履き慣れた同じ靴をなるべく長く履き続けたい」というフィット感にこだわるニーズも根強く、そのため、別売りのパーツを用意して自分で“かかと”を取り替えられるタイプなども登場しているという。

 他方、カラーバリエーションも充実してきているが、男女とも人気が高いのはベーシックな「黒」だとか。どんな服装にも合わせやすい色なので、「1足持っていれば、旅行、散歩から、内々の法事などちょっとした会合までいろいろな用途に使える」ことが好まれる理由になっているようだ。このあたりはシニア世代ならではの合理的な消費性向の表れ、ということかもしれない。

■体を支えながら“押し歩き”できるキャリーバッグ

 次はバッグ。旅行用バッグとして年代を問わず、このところとみに人気が高まっているのがキャスター付きのキャリーバッグ。重い荷物を移動中にいちいち持ち上げなくて済む手軽さが人気の理由と思われるが、そうしたキャリーバッグにも体力、脚力が低下してきたシニア向けに開発された機能性商品がある。

スワニー「ウォーキングバッグ」は体の横で押し歩ける4輪キャスター付きのキャリーバッグとして、シニア層の支持を集めている

 スワニー(香川県東かがわ市)が製造販売する、その名も「ウォーキングバッグ」がそれ。最大の特徴は、普通のキャリーバッグが体の後ろから「引く」のに対して、こちらは体の横に置き、体を支えながら「押し歩く」ことができる構造になっていること。ちょうど大型のスーツケースと同じような要領だ。

 それを可能にしたのが「湾曲ハンドル」と名付けた、バッグ側に少し傾斜させたハンドル(取っ手)部分の独特の形状。体重をかけても倒れずに真っ直ぐ進むように考案したもので、これによって引く時に比べて6分の1程度の軽い力で運べるという。取っ手の長さは5センチ刻みに5段階(90~75センチ)に調整でき、握りの位置を自分の身長に合わせられるようになっている。

 車輪も工夫している。キャリーバッグではキャスター2個が主流だったころに他社に先駆けて、高さ60ミリの大型の「無給油キャスター」を4個装着。多少の凸凹道や砂利道でも前後左右360度なめらに動かせるようになっている。キャスターが摩耗した場合は、プラスドライバーを使って簡単に交換できる(交換用は別売り)。

 また、大型タイプの場合は横に倒せば、そのまま簡易椅子になるのも売り物。ハニカム(蜂の巣)構造のABS樹脂フレームを採用し、体重80キロ以上ある人が座っても潰れない強度を確保しており、旅先で疲れたときなどにちょっと腰を下ろすのに便利だ。

 発売は1997年で、当初は旅行用バッグからスタート。現在では買い物などの日常遣い用、ビジネス出張用など大小様々な約50タイプをラインアップし、累計販売数130万台を超えるヒット商品に育っている。価格は旅行用・デイリー用とも容量などによって1万7850円~3万9900円で、2万円前後の商品が多い。

 このうち、シニア層に最近とくに人気が高いのはバッグ本体をハンドル・キャスターのフレーム部分から取り外せるタイプで、「部屋に上がる時にはバッグだけ持ち込めればいい」という女性層が支持しているという。

 開発を陣頭指揮してきた同社の三好鋭郎会長によると、購入者の8割はシニア層で、最近も「足腰が悪くなって長時間歩くことができなかったが、このバッグを使うようになって、休み休みながらも1日8000歩も歩けるようになった」というはがきが届いたそうだ。

 実は、三好会長は幼少時に患ったポリオ(小児まひ)の後遺症で足が不自由。長年、商談などで国内外を忙しく飛び回わる中で「重い荷物を抱えての移動にずっと苦労してきた」ことがウォーキングバッグ開発の出発点になっている。それだけに、年間7000通以上届く購入者からのアンケートはがきが「新商品開発のヒントになっているだけでなく、私自身の生きがいにもなっている」と語っている。

■携帯に便利な折り畳み式ステッキ

 足元の不安が増してきたと自覚しているシニアには、“携帯用ステッキ”を旅行バッグの中に入れておくことをお勧めしたい。要するに、使わないときにはしまっておけるステッキで、折り畳みタイプ、杖(つえ)本体を回転させて長さを伸縮できるタイプなど、最近はいろいろなタイプが出回っている。

「ステッキのチャップリン」の5段折りステッキ「リバティCH320」は英国調のデザインで人気(価格は1万7850円)

 例えば、前回紹介した東京・新宿にある専門店「ステッキのチャップリン」では3段、4段、5段折りの各折り畳み式ステッキを販売している。中心価格は1万2600~2万9400円で、いずれも専用ポーチ付き。

 同店を経営する山田澄代サン・ビーム社長は「通常の一本杖は意外と置き場所に困るんです。レストランや劇場に行ったとき、あるいは旅先のホテル・旅館に着いたときに邪魔になることも多い。そのため、不要なときには小さくしまえるタイプは隠れた人気商品になっています」と“効用”を説明する。

 旅先ではステッキが活躍する場面が普段以上に多いように思われる。ストックが必要となるような本格的なトレッキングは別としても、多少の凹凸や高低差のある遊歩道や初心者向けのハイキングコースを散策したり、山形の立石寺、静岡の久能山、四国の金比羅様など長い階段のある観光名所を訪ねたりするときに、手すりと同時に杖を使えば体の疲労も軽減でき、安心して旅行を楽しめるのではないだろうか。

 ステッキへの抵抗感のあるシニアでも、旅先なら「安全優先」と割り切って使うという判断もしやすいだろうから、自宅で本格的に使い始める前の予行演習くらいの気持ちで試してみてはいかがだろう。

 次回は、シニアの憧れ、家庭菜園や田舎暮らしを後押ししてくれる便利サポート商品を取り上げる。

 

高嶋健夫(たかしま・たけお) 1956年生まれ。79年早大卒、日本経済新聞社入社。編集局産業部、日経文庫編集長などを経て、99年フリーランス・ジャーナリストに。30代で目を患って以来、20年近く、共用品・ユニバーサルデザインの取材を続け、著書多数。主な著作に「R60マーケティング」(日本経済新聞出版社)「だれにとっても使いやすいバリアフリー生活用品100選」(同)などがある。